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2万円以下で自作する500Wh級ポータブル非常電源

今年は近畿地方で猛威を振るった台風21号や、北海道胆振東部地震と、長期停電の発生した地域が多かったので非常用蓄電池の必要性を痛感した方も多いのではないでしょうか?

キャンプブームもあってか、amazonや楽天を見ると非常に高性能なポータブル電源が沢山出回るようになりました。

  • 400〜600Wh級の大容量リチウムイオンバッテリー
  • 300W級純正弦波インバーター
  • MPPT方式のソーラーチャージコントローラー

といった、従来バラで揃えたら十何万円かかる内容の高性能機材たちが、統合されてワンパッケージで4〜6万円で買えるなんて良い時代になったもんです。

しかし今後来るか来ないかわからない災害の備えに4〜6万円なんてかけてられない!という方もおられると思いますし、ここまで過剰に高性能である必要もないと感じる方もおられると思います。

そこで、汎用品を使ってなるべく安価に、性能面は多少妥協しつつほぼ同様の機能を実現した非常電源を作ってみたいと思います。

2021年6月8日追記

その後2年半の間にリン酸鉄リチウム(LiFePo4)バッテリーセルがだいぶ安くなったので、新たにキロワット級ポータブル電源を製作しました。

バッテリーの選定

胆振東部地震の停電時、我が家には捨てずに置いてあった古バッテリーがあったので、急ごしらえのアダプターケーブルで残存電力を取り出し、辛うじてスマホを充電しておりました。

後から調べてみるとこのバッテリー、115D31Lというタイプでワット換算1,380Whもの容量がありました。劣化していて、我が家の3リッターディーゼル車は始動出来なくなっていたのですが、シガーソケット→USBアダプター経由でスマホを充電するには十分の余力があったようです。

コレをそのまま非常電源に流用したいところですが、車用のバッテリーを充電していると電解液から水素がプクプク発生します。引火爆発硫化水素中毒の危険があるので室内では充電できません。それに車用のバッテリーは常に満タンに近い状態を維持しなければならず、深い放電をすると劣化してダメになってしまうという特性があります。

そんなわけで、車用のバッテリーは家庭用非常電源として使うには危険で向いていません。

ディープサイクルバッテリーの検討

エンジン始動のようにドカンと大電流を流す用途には向かないけど、深い放電をしてもさほど劣化しないタイプのバッテリーもあります。キャンピングカーやヨットに積まれる、マリンバッテリーとかディープサイクルバッテリーと呼ばれるタイプのヤツです。車内や船内等の密閉空間での使用を想定してなのか、水素をあまり放出しないタイプの物が多い感じです。(放出するタイプのもあります。)

中でもACデルコ社製のボイジャーというバッテリーがメジャーなようです。13,000円台で入手可能で、容量はワット換算1,380Whなので、容量単価¥9.6/Whといったところ。バッテリー単体でのコスパは最強です。独立型ソーラー発電をやってる方々でこれを使っている方々が多いのも頷けます。

しかし、比較的水素放出が少ないタイプとは言え完全密閉ではなく、倒せば電解液(希硫酸)が漏れ出します。そして26kgという超重量!充電電圧も通常のバッテリーより高めで対応する充電器が高価です。

充電器込みで容量単価を計算すると¥22.8/Whとなり、トータルではコスパが悪くなるので採用は見送りました。

シールドバッテリーの検討

次に候補に上がったのは、バイクのバッテリーやUPS(無停電装置)でよく使われるシールドバッテリーです。これもディープサイクルバッテリーの一種で深い放電に強く、こちらは完全密閉なのでひっくりかえしても電解液が漏れ出すことも水素が漏れ出すこともありません。容量や大きさのバリエーションも豊富で、汎用品なので非常に安価に入手することができます。

■ SoundHouse ― CLASSIC PRO / UPSB7AH  ¥1,780-(税抜)

↑例えば費用を最大限に抑えようと思ったらコレなんて最適です。片手で持てるくらいの重量で、ワット換算84Whの容量があります。60形のLED電球(8W)を一晩灯せるくらいの電力量で、よくUPSとかに入ってるヤツです。

でもメイン用途がスマホ充電なら、12V→USB5V変換アダプターの変換効率90%と仮定しても約15,000mAh程度の容量になってしまうので、それならAnkerとかの20,000mAhクラスのモバイルバッテリー買ったほうが実用的です。ワット単価も¥21/Whくらいでイマイチです。

同じシールドバッテリーでも、もっと大容量なものになると容量あたりの単価がぐっと下がります。2018年11月現在、ある程度の流通量があって、容量あたりの単価が最も安いのが台湾のLong社製「WP45-12」でした。電動カートやシニアカーによく使われている汎用バッテリーで、容量はワット換算540Whあります。店によっては送料込み1万円以下で販売されており容量あたりの単価は¥18.5/Wh、2個セットなら¥16.8/Whです。充電器も安価な汎用品が使えます。

探せばもっと大容量なシールドバッテリーはあるのですが、コレ以上になると汎用性が落ちるためか流通量が少なく高価になります。

コスパを考えた結果、こいつを非常用電源に採用することにしました!

※ 2021年6月8日追記

その後WP45-12はあまり流通しなくなったようで、現在はもう少し容量の多い「WP50-12」というモデルが多く流通しているようです。ワット換算600Whの容量で、ワット単価は¥14.8/Wh。充電電圧14.4V〜15Vで充電電流15Aまで。メーカーのデーターシートはコチラ

充電器の選定

平常時に家のコンセントからバッテリーを充電しておくためには、まず充電器が必要になります。我が家には元々車用のバッテリー充電器があったので使い回すことができたのですが、充電器の選択肢もかなり幅広いです。

注意しなくてはならないのは、シールドバッテリーは急速充電厳禁という点です。電解液が完全に密閉されているので、ボコボコと急激に水素が発生すると膨張爆発する恐れがあるためです。一般的には容量の10分の1の電流でゆっくり充電するのがセオリーのようです。

■ Long WP45-12 Datasheet

メーカーのデータシートでWP45-12バッテリーの詳細な仕様を見ると、充電電圧は14.4V〜15.0V、充電電流は13.5A以下でと指定されとります。容量45Ahなので4.5A以下で充電しなきゃと思ってましたが、コイツは意外と大電流流しても大丈夫なようです。但し電圧は15V以下なので、車用充電器のブーストモードで18Vかけたりデルコの充電器で16Vかけたりしちゃダメなようです。

フロート電圧は13.5V〜13.8Vと書かれているので、充電が終わったらこのくらいの電圧をかけっぱなしにしとくと自然放電しないで満タンを維持してくれるようです。

以上を踏まえて充電器を選定します。

コスト最重視なら、amazonで千円ちょいで買える14V1Aの低電流でじっくり充電するタイプが最安です。前述の7AhのUPS用小型バッテリーも痛めること無く充電できるようです。しかしWP45-12を充電しようと思ったらいったい何日かかるやら…。充電終了を感知して自動的にフロート電圧まで下げる機能はついていません。充電完了ランプが点いたら自分でコンセント抜いとけよという仕様です。

老舗セルスターのDRC-300は、4千円前後とちょっと高くなりますが45Ahまでのシールドバッテリーに正式対応しています。ノーマルモードで電流3A、電圧14.7Vで充電してくれるWP45-12にはピッタリな充電器です。充電後は自動的にフロート電圧に下げてくれてますし、バッテリーが劣化してたら自動でパルス充電で蘇生してくれます。電源に繋ぎっぱなしでバッテリーメンテナンスをお任せできるのがいいですね。

但し劣化バッテリーを復活させる為の「ブーストモード」という機能を使うと、充電初期に18Vの電圧がかかってしまうので、この機能だけはシールドバッテリーには使用厳禁です。

ソーラー充電という選択肢

災害時に停電が長引いた場合は、バッテリーに貯めた電力を使い果たしてしまえばそれで終わりですが、ソーラーパネルがあれば再びバッテリーを充電することが出来ます。高価なAC充電器を購入する必要もなくなります。

しかし大抵の12Vバッテリーは充電電圧が14V程度なのに対し、12Vシステム用ソーラーパネルは出力が18V前後あるので、直結するとバッテリーが過充電でダメになります。夜間はバッテリーの電力がソーラーパネルに逆流して過放電でダメになります。

そこで通常はソーラーパネルとバッテリーの間に「チャージコントローラー」というものを繋いで機器を保護するらしいです。何をする機械かと言うと、ソーラーパネルからの出力電圧を充電に適した電圧に調整してバッテリーに供給し、夜間はバッテリーからパネルへの電気の逆流を遮断してくれます。

ちょうどamazonのベストセラー品がタイムセールで1,615円になっていたので購入。USB端子が2つ付いていて、ここに直接スマホを繋いで充電することもできます。

最近のポータブル電源はMPPTというもっと高効率な制御方式のソーラーチャージコントローラーを内蔵しているようですが、単品で購入すると価格が一桁上がるので採用見送りです。

あれ?ソーラーパネル は?

・・・肝心のソーラーパネルですが、格安の中古品が出るのを待ってしばらくじっくりヤフオクやメルカリをウォッチしてみることにします。

相場としては50Wパネルが7〜8千円、100Wパネルが1万2〜3千円くらいといった感じ。樹脂製のペラペラなフレシキブルタイプが最近の流行りのようです。

インバーターの選定

DC12Vのバッテリーに貯めた電気を、家電の使えるAC100Vに変換するにはインバーターが必要です。幸いウチには古い車載機器があったので購入せずに済みました。

交流波形が家のコンセントと同じ山なり波形の正弦波インバーターと、波形が四角い矩形波インバーターがあります。

正弦波インバーターはほとんどの家電が使える代わりにかなり高価です。矩形波インバーターは安価ですが使えない家電があります。出力によってもかなり価格が変動します。最近のポータブル電源に内蔵されているインバーターは正弦波の300W出力タイプが主流のようです。

同じ正弦波の300Wタイプを単品で購入すると5〜6千円と言ったところ。

妥協して矩形波の300Wタイプを選べば正弦波の半額以下で購入できます。

矩形波インバーターでの家電動作状況

ウチにあったのは昔オートバックスで買った120W矩形波インバーターでした。

安価な矩形波インバーターではどの家電が使えてどの家電が使えないのかが気になるところ。そこで、試しに矩形波インバーターでの各種家電動作状況をテストしてみました。正弦波か矩形波かインバーター購入に迷った方は参考になさって下さい。

白熱灯  問題なく点灯。
蛍光灯 × 点灯せず。
LED電球  問題なく点灯するが、「ジー」という異音。
扇風機  問題なく動作するが、モーターから「ヴィー」という異音。
ファンヒーター  問題なく動作するが、モーターから「ヴィー」という異音。
iPhone電源アダプター  充電できるが、その間タッチ操作がカクカクして使い物にならない。アダプターからは「ジー」という異音。
macbook電源アダプター  充電できるが、その間マウスカーソルがカクカクして使い物にならない。アダプターからは「ジー」という異音。
電気毛布 × 全く温まらない。

電子レンジを使いたい場合は1500W2000Wクラスの正弦波インバーターが必要になり、洗濯機や冷蔵庫といった大型モーター系家電を駆動するには、消費電力が低くても起動時に大電力を要するので1500W〜2000Wクラスのインバーターが必要になるようです。

このクラスのインバーターは2〜3万円しますし、そんな大電力を一気に取り出したらバッテリー寿命が著しく縮んでしまうので、ここは非常用と割り切って諦めたほうがよいかもしれません。

集めた機器を接続!

チャージコントローラーの説明書に従ってバッテリーやインバーターを接続していきます。

結線には、車の電装品に使用するエーモンのダブルコードを使用。ウチのインバーターは120Wなので10A程度しか流れません。チャージコントローラーの許容電流も20Aなので、太さは2.0sqあれば十分。

300Wタイプのインバーターを利用する場合は、25A程の電流が流れるのでチャージコントローラーや2.0sqケーブルの許容電流を超えてしまいます。3.0sq以上のケーブルを使用した上で、チャージコントローラーの負荷端子には繋がずにヒューズ等をかませた上でバッテリーに直接繋ぎましょう。

バッテリーへの接続にはΦ6以上の丸端子を使用。LongのWP45-12シールドバッテリーはターミナル部分にM6ボルトが付属しているので、しっかり固定できます。こちらも出力200Wを超えるようなインバーターを使う場合はもっと許容電流の大きなものを使用する必要があります。

家に電工ペンチがない場合は、丸端子と電工ペンチをセットで買うと安いです。

黒ガムテープでチャージコントローラーをバッテリーに貼り付け・・・

バッテリーターミナルも黒ガムテで絶縁カバー。

シガーソケットとインバーターも黒ガムテープでバッテリーに巻きつけて、車載USB充電器もセット。

バッテリーの取っ手を出せば、540Whのポータブル電源の出来上がりです!ちょっと重いけど。

バッテリーとチャージコントローラー以外は家にあったものなので1万円チョイで出来ましたが、300Wの正弦波インバーターを付けても1万8千円くらい、矩形波インバーターとセルスターのAC充電器を付けても2万円以内で出来ます。

容量的にはsuaokiのG500と同等で、お値段3分の1で出来ます。非常時に備えてお宅にも一台いかが?

2021年6月8日追記

その後2年半の間にリン酸鉄リチウム(LiFePo4)バッテリーセルがだいぶ安くなったので、新たにキロワット級ポータブル電源を作成しました。


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